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ナチスドイツと太平洋戦争下の日本政府、「音楽」を国民の扇動に利用
篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」 ビジネスジャーナル 2018.8.13 https://biz-journal.jp/2018/08/post_24402.html

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 もうすぐ終戦記念日です。同じ過ちを繰り返さないよう、そして世界の平和を祈りながら、当日を迎えようと思います。
 第二次世界大戦は太平洋戦争ともいわれますが、これはもちろん日本とアメリカ間の戦争に対する呼称。ヨーロッパでは、大陸を二分した戦いが繰り広げられていました。
 ドイツも敗戦国となりましたが、戦時のドイツの特異性は、ユダヤ人の大量虐殺を行ったことでした。ドイツ国民でありながら、ユダヤ系であるというだけで地位や財産を奪われ、さらに家族も引き離されて強制収容所に送られました。そして、ナチスは征服した国々のユダヤ人も片っ端から捕まえていきました。ヒトラーというひとりの人間の存在が引き起こしたのは確かですが、それを支持したのは興奮の中、自分たちを見失ったドイツ国民でした。
 それはヒトラーの演説場所だけでなく、ドイツ・キリスト教会内でも焚きつけられました。人が集まる教会内で、神の愛を語る代わりにユダヤ人排斥が叫ばれていました。戦争は集団を狂わせてしまうのです。
 ひとつ、ユダヤ人のつくった小話があります。
「第二次世界大戦中、あるユダヤ人がドイツ教会の礼拝に来ていました。彼はユダヤ人でありながら、キリスト教信者だったのです。牧師は、いつも通りユダヤ人批判を始めていたのですが、ユダヤ人が1人紛れ込んでいるのを見つけると、批判の言葉は彼個人に向いてきました。いたたまれなくなった彼が教会から出ようとしたら、肩を叩く人がいました。『僕も教会から出なくてはならないね』と言いながら。振り返ってみたら、それはイエス・キリストでした」
 ご存じの通り、キリストはユダヤ人です。これは典型的なユダヤ人ジョークですが、彼らのジョークには皮肉が含まれています。そうやって長い間、自分たちの国を持たない民族は生き抜いてきたわけです。
 さて、ユダヤ人排斥は音楽の世界にも大きな影響がありました。ユダヤ人は、特に弦楽器の演奏の才能が豊かだといわれています。今でも、世界的なヴァイオリニストや著名オーケストラのコンサートマスター、首席弦楽器奏者にはユダヤ系が多いことは確かです。そんなユダヤ人の音楽家も戦時中、運が良い一部の人は海外逃亡できましたが、ほとんどは強制収容所送りとなりました。優秀なユダヤ系奏者を失ったドイツのオーケストラが、戦前のような高い水準に戻るまでには、数十年もかかったといわれています。半面、アメリカに渡ったユダヤ人系音楽家によって、アメリカの音楽水準が飛躍的に上がったのは皮肉な話です。
 終戦後、熱狂から覚めたドイツ人は、国民全体の自責の念と後悔に包まれて、今もなお大きな重荷を背負い続けているかのようです。そんなことが底流にあり、最近では物議を醸しながらも、シリア難民を大量に受け入れたのかもしれません。

戦争に利用された音楽

 ところで、作曲家のフランツ・リストの作品に、「前奏曲」という有名な名曲があります。随分前になりますが、フランクフルト放送交響楽団と録音の仕事があり、3曲録音予定でしたが、その3曲目が「前奏曲」でした。フランクフルト放送としては、これまであまり録音をしたことがない曲を録りたいというのが本音ですが、古今東西の名曲はほとんど録音されてしまっており、たった3曲を決めるだけで、うんざりするくらい時間がかかりました。



 しかしなぜか、そのなかでも名曲中の名曲である「前奏曲」だけは、最初に提案した段階で、不自然なくらいすんなり決まりました。残念ながら、時間が足りなくなり、結局「前奏曲」は録音できなかったのですが、その後、オーケストラの楽員と話していて、どうしてすんなり決まったのかがよくわかりました。実は、「前奏曲」は、ナチスがラジオを通して大本営発表する時に必ず流していた曲らしく、今でもドイツ人は、この曲を聴くとナチスを連想してしまうので、あまり演奏されないとのことでした。
 このようなトラウマは、ユダヤ人側にはもっと深く残っています。ヒトラーがドイツ精神の理想としていたワーグナーの音楽は、特にワーグナー自身が晩年ユダヤ人批判をした事実もあり、ナチスにはうってつけの作曲家であり、効果的に利用されていました。
 そしてもうひとりは、当時のドイツを代表する作曲家であるリヒャルト・シュトラウスです。彼は実際に、ナチスの帝国音楽院総裁の地位についていたこともあり、協力関係にありました。そのため、ユダヤ人国家のイスラエルでワーグナーとシュトラウスの音楽を演奏すると今もなお、政治的論争を起こしてしまうことがあるのです。シュトラウスに関しては、彼の息子の嫁がユダヤ系だったので、家族を守るためにやむなくということがありました。彼らの音楽の純粋な素晴らしさには関係ないだけに、残念で悲しく思います。
 さて皆さん、同じ景色を見ながら、2つの両極端な音楽を聴いてみてください。景色の印象がまったく変わってしまいます。それほどまでに音楽は、五感の中では特殊である聴覚に直接訴えます。目をつぶっても、鼻をつまんでも、対象物から距離を開けて触れないようにしても、音だけは耳からすべて入ってきて、直接脳に作用してしまいます。つまり、逃れるのが困難で、人々をコントロールするために悪用しやすいのです。



 1941年12月8日の日米開戦時には、軍艦マーチがラジオから繰り返し流されたそうです。日本海で、日本の軍艦が大国ロシアのバルチック艦隊を打ち破り、日露戦争を勝利したことで日本人は不敗神話を信じ始めましたが、その英雄でもある“軍艦”という名前のマーチは、日本人にとって、大国アメリカ相手でも勝てるはずだと信じ込ませるには十分だったと思います。
 これからは、そのような音楽の使い方はしてほしくないと強く思います。人種、国境、性別、宗教、身分の垣根を越え、人と人の心をひとつにするのが音楽の本当の力なのです。
(文=篠崎靖男/指揮者)

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by hageguma | 2018-08-13 15:41 | 読み物 | Comments(0)

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