警察のウラは闇

警察の「職務質問」は一体どこまで正当なのか 納得のいかない職質にはこう対処せよ
ⓒ東洋経済 2016年12月06日
 https://toyokeizai.net/articles/-/148046

d0007721_11230825.jpg
世界で最も安全な国はどこなのか。様々なデータがあるようだが、日本はどのデータでもトップ10に入っている。確かにわが国の殺人・窃盗・詐欺といった犯罪(刑法犯)は、2002年の約285万件をピークに、毎年約10万件単位で減少し、2015年には109万8969件(交通事故を除く)と、6割以上も減少した(『警察庁 平成27年の犯罪』)。

だが、本来なら犯罪が減ると、警察はその余力を検挙活動に振り向けることで、検挙件数や検挙人員、検挙率も向上するはずだが、なぜかいずれも減少。検挙率は30%前後で推移している。

犯罪が激減した理由について、警察官僚らは、地域住民や企業、地方公共団体、警察その他関係機関が連携し、各種の犯罪対策を展開したことにあるとしている。果たしてこれは本当か。おそらく最大の理由は若年人口の減少だろう。いずれにせよ警察官僚らにとって、犯罪の激減は、予算や人員の合理化(削減)に繋がりかねない、頭の痛い問題なのだ。 
 

市民を守るはずの警官は13万人


警察の表の顔として、警察署の交番・駐在所や自動車警ら隊、鉄道警察隊といった、市民の安全を守る地域警察がある。このほか犯罪捜査の刑事警察、少年補導や犯罪予防の生活安全警察、交通取り締まりや事故捜査の交通部門が存在する。裏の顔は市民運動やテロを取り締まる公安だ。

実のところ警察は、警察署の定員や都道府県警察で働く地方警察官(警視以下の警察官)の各部門別の人数を、秘密にしている。『警察白書』によると、地方警察官の定員は、2015年4月現在で約25万7000人だが、これは犯罪が減り始めた2003年に比べて、1万6820人増えている。増えた警察官がどの部門に配置されたのかは闇の中だ。

地域警察運営規則(国家公安委員会規則)は、地域警察について、「市民の日常生活の場において、常に警戒体制を保持し、すべての警察事象に即応する活動を行い、もつて市民の日常生活の安全と平穏を確保することを任務とする。」としている。地域警察で仕事をする警察官の数は、おおよそ全体の6割とされるから、2015年4月現在で約15万4000人である。うち現場で働く「警部補」以下の警察官は、その9割の約13万9000人だ。警察はこの体制で市民の日常生活を守っていることになる。

しかし、市民の日常生活を守る仕事の拠点となる、警察署の交番や駐在所の数は減っている。犯罪が減り始めた2003年から2015年4月までに、全国の交番は6556カ所から6250カ所へ、駐在所は7882カ所から6474カ所へ減少してしまった(『警察白書』)。

同規則によると、地域警察官、言い換えると、交番・駐在所のお巡りさんは、立番や見張り、在所、警らおよび巡回連絡を通常の勤務形態とする。事件や事故の処理は、犯人の逮捕や危険の防止、現場保存など、現場における初動的な措置に限定。以降の捜査は刑事係などの専門警察に引き継ぐ。地域警察官(当時は外勤警察官)の仕事の範囲が、警察庁の指示でこのように限定されたのは、1960年代半ばのことだった。このことが捜査力の低下を招き、ひいては警察全体の捜査力の地盤沈下を招いた。

最近の警ら(パトロール)は、2人1組のパトカーによる警らが中心のようだ。車による警らは、徒歩警らより、警戒網の目は荒くなる。赤い回転灯を回しながら走るパトカーをよく見かけるが、これでは犯罪予防の効果はあるかもしれないが、犯罪の検挙は難しい。地域を回る巡回連絡も、マンションなど市民の居住環境の変化から滞り、住民との接点も失いがちだ。地域警察官のアンテナは昔に比べて低くなっているのは間違いない。

検挙に至るのはごくわずか


地域警察官の勤務形態から、地域警察官にとって「職務質問」(職質)は、犯罪の検挙のための有力な武器だ。

断っておくが、職質は警察官の行政権限を定める警察官職務執行法(警職法)を根拠とするもので、犯罪捜査の端緒となっても、刑事訴訟法による犯罪捜査の権限でない。

『平成27年の犯罪』によると、刑法犯の検挙件数34万6183件のうち、地域警察官の職質が端緒となって被疑者を特定した件数は、「見張り立番中」747件、「徒歩・自転車警ら中」1万3003件、「自動車警ら中」2万1361件、「列車警乗中」223件等で、合計3万5334件だった。これは検挙件数全体の10%に過ぎない。罪種別にみると、「占有離脱物横領」が1万8405件で、49%を占める。「窃盗」では、空き巣など侵入盗254件、自動車盗148件なのに対し、万引き1207件、自転車盗7059件となっている。

地域警察官13万9000人に対し、職質による検挙件数は3万5334件。1警官当たりの検挙件数は約0.27件にしかならない。つまり、1人の地域警察官が年間通じて職質で犯罪を検挙するのは”1件にも満たない”のだ。なおこの統計上の職質が、警職法上の職質と同じかは不明である。地域警察官の職質による検挙は、決して市民が期待するような成果を上げていない。

職質は地域警察官にすれば、犯罪検挙の有力な武器であるが、難しい技能とされる。あくまでも市民の協力を前提とする”任意の手段”であり、相手方が何らかの理由で拒否するときには、説得して応じてもらうほかない。

したがって職質の技術の基本は会話である。が、地域警察官と市民との会話の機会が少なくなっている今日では、職質技術は育たない。本来この職質は、刑事警察官の聞き込みや取り調べの技能の基本にもつながるから、刑事警察官にとっても基本的な技術なのである。

警察では、地域警察官の職務執行力を強化するため、職質能力向上を目的とした研修・訓練を実施したり、卓越した職質の技能を有する職務質問技能指導官による実践的な指導等を通じて、全体の技能の向上に努めているとしている。だが十分な成果が上がっていないのが現状だろう。

職質をされる対象とはこんな人


職質の法的な根拠は、警職法2条1項である。警職法が施行されたのは1948年だ。以来、68年間を経過して、社会環境は一変した。国民の生活様式も意識も大きく変わっている。

警職法2条1項による職質の対象は、警察官が”異常な挙動””その他周囲の事情”から合理的に判断し、以下の1か2のいずれかに該当する者に限られる。(1)何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足る相当な理由のある者(犯罪容疑者)(2)既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者(犯罪の目撃者等の参考人)

また、職質の手段は「停止」させ、「質問」することである。これに付随して同行要求など(2項、4項)もできるが、職質は強制手段ではないので、身柄の拘束や強制連行、答弁強要は許されない。

警察官は、走行中の車の運転者が職質対象者かを外部から観察し判断することは、不可能に近いだろう。犯罪者は警察官に職質されるような異常な運転はしない。警職法2条の要件を欠く職質は、違法で許されないはず。しかし、現場では実質的な”ノルマ制度”を背景に警職法2条の要件を具備しない職質が行われ、幹部もそれを追認、矛先は市民に向けられる。それでも警職法を時代にマッチした法律に改正しようとする動きはない。

警察官の初任科教育に使われる警察教科書(警察法)では、職質と密接に関係する自動車検問について、任意活動であり、警察の責務(警察法2条)を達成するために必要な範囲で行うことが可能としている。サミットなど国際会議の開催時、大勢の警察官が国道で無差別に車を止めて検問をしているケースをよく見るが、あれは職質ではない。警察は警察法2条が根拠と主張しているが、本来、警察の組織を定めている警察法が警察官の仕事の法的な根拠になるとするなら、警察は治安維持のためなら何でもできることになる。こうした考え方は警察内部にコンプライアンス(法令遵守)の欠如を生み出しかねない。

実際に警察署には、警察本部の各部各課から、様々な努力目標と称する数字が示される。警察官採用の応募者数の確保から始まり、暴力団員の検挙件数・人数、覚醒剤事件の検挙件数・人数、少年補導の人数、交通違反の検挙件数等、多くの部門が警察署に努力目標と称するノルマを示し、その達成を求めているとみられる。その数字に合理的な根拠はない。前年実績プラス何%が根拠だ。

警視庁をはじめ多くの都道府県警察では、地域警察官に対して、努力目標として、年(月)間の職質による検挙件数のノルマを課しているようだ。ノルマの達成度合いは年間の勤務評定にも影響し、それは昇任試験の成績にも加味されることになる。

そのため現場では、地域警察官による職質の要件を欠いた職質、任意の限度を超えた職質が横行することになる。また、職質が比較的軽微で検挙が容易な、占有離脱物横領(多くは放置自転車の乗り回し行為)や自転車盗等の事件に向けられることになる。こうした事件は少年によるものも多いところから、地域警察官の職質の対象が、少年や比較的抵抗の少なそうな相手に向けられやすい。

実質”ノルマ”は交通違反でも

だから交通違反では、ノルマを達成するため、物陰に隠れて一時停止違反やシートベルト着装義務違反など、摘発しやすい軽微な違反の案件に血道をあげることになる。職質検挙ができないなら、せめて、交通違反でもといった発想だろうか。交通法令違反の摘発についても、実質的なノルマが課されているとされる。

職質のノルマに関する限り、市民の安全を守るという地域警察官の本来の任務とは裏腹に、市民の期待と全く別の結果を生む。地域警察官の手にある職質という武器は、犯罪者だけではなく、時として善良な市民にも向けられる可能性があるのだ。ここに警察が市民の信頼を失う要因がある。

ならば職質はどこまで認められるのか。

警察法では、職質対象者が職質に応じない場合であっても、判例や学説をもとに、説得や一定の限度の実力行使も認められるケースまたは限界について、説明している。現場の警察官の職質の実態を知るうえでも参考になるので紹介しておこう。

(1)停止、以下は許される

・逃げ出した不審者に質問を継続するため、腕に手をかけて呼び止める。

・逃走しようとした者の前面に立ちふさがる。          

・酒気帯び運転の疑いのある者が自動車に乗り込んで発進しようとしたときにエンジンスイッチを切る。

(2)質問、以下は許される

・刑事訴訟法の取り調べではないから、供述拒否権の告知はしない。

・不審点が解明されれば、質問は終了する。

・疑いが強くなった場合、ある程度の実力を使っても、立ち去ろうとする相手を引き止める。

(3)所持品検査

・所持品を提示させ検査することは、実務上職質に付随して、相手の承諾の下に行われている。所持品検査は任意活動として、必要かつ相当な範囲で行うことができる。

・所持品を外部から観察し、質問することは許される。

・承諾なしに着衣や携帯品の外側から手を触れる行為は許容されやすい。

・高度の必要性があるときに限って、承諾なしにバック等を開けることも認められる。

・承諾なしにバック等から所持品を取り出す行為は、必要性、緊急性が一層高度な場合等、極めて限られたときにしか認められない。

(4)同行要求

・実力を用いたときには、身柄の拘束や連行という形態に当たり、違法とされることが多い。

・実力行使は軽くその方向を向かせるといった程度を除き認められない。

・警職法2条の要件を満たしていない同行要求(任意同行)も、相手方が承諾する限り適法である。

(5)凶器捜検

・刑事訴訟法の規定で逮捕されている者についてのみ認められる。

・証拠品の収集のために身体検査を行うときには、差押許可状や身体検査令状が必要だ。

自動車検問はどこまで許されるか

さらに、自動車検問についても、具体的に規定した法律はないとしながら、2つに区分して可能であるとしている。

(1)当該車両について具体的異常を外部から現認できる場合、警職法2条の職質の要件があるから、合図を送って停止を求めることができる。以下の行為は適法である

・自動車の運転席ドアに手をかけて制止する。

・自動車等を用いて追跡し、道路端に誘導停止させる。

・前後からはさみ打ちにして停止させる。

・自動車の窓から手を入れスイッチを切る。

(2)外部から何ら異常が現認できない場合、警職法2条の職質の要件がないものの、以下の条件の範囲で認められる。ただし、応じない車両は不審車両として、職質の要件を満たすことになるから、停止を求めることができる。

・検問実施の相当性があること 

・強制にあたらないこと

・相手方の自由意思に基づく任意の協力を求める形で行われること

・相手方に過重な負担をかけるものではないこと

現実には警察OBの筆者でさえ、相当の職質には威圧を感じたことがある。職質を強制と思い込んでいる市民の多くは、警察官の言われるままに対応してしまうに違いない。

そこで、職質は強制手段ではなく、身柄の拘束や強制連行、答弁強要は許されないことをしっかりと理解していただくために、対応の心構えについて説明したい。

任意か確認、手を触れてはいけない

(1)「これは職務質問ですか?任意ですね」と確認する

警察官は、どんなときでも、それが任意であるとは口にしない。こちらから切り出すことで、強引な職質にブレーキをかける。

(2)冷静に対応する。警察官と口論したり、手を触れてはならない

興奮して余計なことを口にすると、警察官はそこを突いてくる。警察官の身体に少しでも触れると、「公務執行妨害」で逮捕する口実を与える。警察官の挑発に乗らないことも大切だ。

(3)警察手帳の提示を求め、警察官の所属・階級・氏名を確認する

警察官はいつも組織に守られて仕事をしている。個人の名前等を知られることを極端に嫌う。警察官は1人になると極端に弱い特性を持つ。

(4)声をかけた理由の説明を求める

意外に警察官は法律に疎い。職質の要件を記憶し理解している警察官は多くない。限界があるとは知っていても、判例などを研究してない。こちらが法律に詳しいことをちらつかせることも効果的である。

(5)所持品検査には応じない

所持品検査に法律上の根拠はない。警察官に所持品を見られるだけで、不愉快になるのであれば、以下を実行するべき。

・バック等を渡さない、開けさせない、探させない、中を見せない。

・ポケット内の物を出さない、手を入れさせない。

・車のトランクやダッシュボードは開けない。

(6)同行要求には応じない。その場で終わらせる

同行要求は、人目があったり、寒暑や風雨のとき、交通の妨害になる場合など、職質を受けている側の都合で許される。警察官の都合や思惑で同行を求めることはできない。警察官は自分の領域に何とかして連れて行きたいもの。求められたら「いや、結構です」と断ろう。

(7)できれば警察官とのやり取りを録音する

今はほとんどの人が録音機能付きのスマートフォンや携帯電話を持っている。その機能を使って警察官とのやり取りを録音する方がよい。警察官はそれを取り上げたり止めさせたりすることはできない。録音は警察署に抗議したり、訴訟のときに役に立つ。

以上である。職質を含め、警察組織や刑事訴訟法の問題については、拙著『警察捜査の正体』(講談社現代新書)に記した。参考にして頂きたい。




[PR]
by hageguma | 2018-07-01 11:25 | 読み物 | Comments(0)

池田市民の会/池田市民共闘/池田支部


by hageguma